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読書感想文:『大英帝国 最盛期イギリスの社会史』 長島伸一著 (講談社現代新書) [読書]

自宅の”開かずの棚”にあった本をすべて取り出し整理を始めたところ、目に留まった本です。

確か学生の頃買ったんだろうけど、なんで読みたいと思ったのか、まったく思い出せません。

スパイものの小説を読んでいて、現代の対外諜報機関はイギリスが長い王国下で19世紀末頃から少しずつ整備していったように見えていました。では19世紀のイギリスはどのような政治・社会だったのだろうか、という関心がちょうどあったため、手に取ったんだろうと思います。

これがタメになる本でした。

まずは、”読みやすい”

講談社現代新書ならではの工夫があります。岩波新書ではこうはいかないでしょう。

その1 研究領域以外の人達でも読みやすい工夫

平易な言葉、分かりやすい例を多用しています。

その2 サイドストーリーが興味深い

本編に沿う形でサイドストーリーが用意されています。

2つあって、

  • 同時代を生きたナイチンゲールが若年から晩年までの著書から引用することで時代考証の裏付け
  • この時代にできた『ジャックと豆の木』の物語のテーマとの対比

その3 当時描かれたスケッチ画を多数掲載

著者の主張の裏付けを、スケッチ画で一目瞭然とさせています。

また、スケッチ画自身も非常に興味深いテーマのものが多く、驚きました。絞首刑を娯楽として見に行く、という当時の風習までスケッチ画になっています。

現代に残る大衆文化や経済・政治制度の基礎ができた場所

その経緯は私にとっては思いがけないものでした。

  • サッカーは数千人が参加する競技で、押し倒す・踏みつけるなどは当たり前だったのが、統一ルールができて、より洗練されたスポーツに変化したこと。
  • 19世紀はアメリカとドイツという新興国が国の政策を後押しとして多額の資本を使った大量生産を行い始め、自由経済を極限まで押し広げて各企業が自由にやっていたイギリス経済は変革の機会を失い、低成長に変わっていった。
  • 現代の普通選挙の仕組みができあがったのはイギリスが19世紀に3度にわたる選挙法改正を行って選挙権の拡大を進めてきた成果だが、2回目の改正は、議会はその気がなかったのに成立してしまったという、偶然の所産。
  • 娯楽の大衆化は、鉄道などの移動手段の拡張や移動手段・娯楽自体の低価格化によって、中流家庭でも楽しめるようになった。極貧であったマルクスでさえ、ピクニックに行くことが楽しみとなっていた。

この著書の本当の狙いはコレかな

バブル期の1989年に刊行されました。

その時代、低成長期に入ったビクトリア王朝が経済発展最優先から貧困対策といった福祉政策、教育などに目を向けたということを紹介することで、いつか終わるバブル期の後の日本はこうあるべきでないか、という筆者の願いが込められているのではないでしょうか。

結び

今や手に入れるのが困難ですし、最新の研究成果で内容更新の必要があるのかもしれませんが、全体像を把握したり自身の誤解を変えたりできて、有益な読書でした。


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